16年度は昨年9月に愛媛県宇和島市立図書館で上甲振洋の学術文集『存々斎集』『存々斎集第二輯』『存々斎集拾遺』『振洋先生詩稿』について、「鳩ヶ谷鈴村家文書」と「博多鈴村家文書」とを調査した。必要事項を筆録したり、コンピュータに打ち込んだり、デジタルカメラ写真に撮ったりした。その結果、これまでのやや曖昧であった事項を明確に出来た。また、前宇和島市立図書館館長草原勲氏より瀬戸内海航路の資料を拝受したり、城川町史談会代表の西岡圭造氏を介して振洋の直筆と思われる書額を拝見し、『入摂記』『三旬程記』研究上の新資料や情報をも得る事が出来た。内子町立図書館では『三旬程記』の内子に関する資料として『内子町誌』などを閲覧し、複写・筆録した。と同時に紀行日記の研究であるから、『帰献録(富士山記)』に登場する「磨針嶺」(滋賀県彦根市)、『三旬程記』に登場する「川津村」(愛媛県西予市城川町)などの実地調査を通しても具体的に理解することに努めた。これらの調査を通して、上甲振洋の立場に立って追体験し、紀行日記の本文・詩及びそこに表れた振洋の心情・思想への理解を深めることが出来たと思う。今年度は他の研究論文執筆や学会発表の為に、この科学研究費補助金による論考が間に合わなかったのは非常に残念である。とは言え、『帰献録(松島記)』『三旬程記』は、訳注が未完成であるので、上記の調査に基づいて、訳注作業を進めてきている。ただ、この二者全部の訳注を今年度内に完成するのは、時間の制約や分量の多さから無理であるので、前者の『帰献録(松島記)』のみに絞って、現在鋭意原文の訓読文・口語訳・注釈などを附けた作業を行っている。同時に『城川町史』(振洋に関する詩)の補訂作業も行っている。これらの研究成果を盛り込んで、科学研究費補助金を平成13年度から4年間交付を受けてきた、その報告書としてまとめ、これまでの研究を総括し、今後の研究を展望したい。
|