中国語は基本的には単音節を単位とする声調言語であるが、官話方言、呉方言などでは、"重音"(ストレスアクセント)の発展に伴って、複音節を単位とする"語声調"が形成されつつある。本研究は、漢語諸方言における語声調の実態を、主に実験音声学的手法によって明らかにすることを目的とした。本年度は、本研究の最終年度であり、補充実験を行いながら、分析データをまとめ、理論的検討を進めた。 (1)実験:NTTコミュニケーション科学基礎研究所(厚木)の協力を得て、北京語単音節声調と語声調における顎位、舌位、唇位の差異を観察した。また『北京口語語料』を材料として、談話における語声調単位の認定とピッチ測定を行なった。 (2)理論的検討:(1)漢語方言にみられる語声調の類型とそれらの音声的特徴について、各種方言資料と音響実験で得られたデータによって検討した。その結果、語声調理論は漢語諸方言の音調分析に有効であること、また語声調の形成に伴い、ストレスアクセントの消失、形態素認識(morphemic identity)の消失等の現象が起きることが明らかとなった。 (2)調音実験と過去に行なった音声生理実験のデータをつきあわせることにより、単音節声調と語声調の生成メカニズムについて検討した。その結果、語声調化した方言においては、単音節と複音節で基本的に同じコマンドによって声調が生成されることが明らかとなった。 (3)過去三年間に行なった音響・調音実験と理論的検討の成果をまとめた研究成果報告書を作成した。
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