当初の予定通り、本年度は基礎的な作業に当てた。研究代表者(飯塚)は、日本におけるこの分野の先行研究を再点検し、資料目録の作成に取りかかっている。来年度、6月末に予定している海外共同研究者との研究打ち合わせまでには形にしたい。海外共同研究者(田、宋)も歩調を同じくして、中国国内の「早期話劇」関係資料の収集を進めている。研究分担者(瀬戸)は、「早期話劇」の最盛期を支えた二つの劇団、新民社と民鳴社の上演演目の整理に当たった。『申報』掲載の上演広告に基づき、まずは新民社の上演演目一覧をすでに公表している。これによって、新民社が1913年9月14日から1914年7月19日まで、ほぼ連日、上海での公演を続けていたことがわかった。その後、地方公演をはさんで、11月15日から上海での公演を再開、1915年1月14日まで上演が続いた。興行形態は、平日が夜間一回公演、土日は昼夜二回公演が基本だった。したがって、新民社の総上演回数は475回と算定できる。先行する劇団の春柳社と比較すると、新民社の場合、ひとつの演目を数日にわたって通しで上演する「連本戯」が多いことが特徴である。この「連本戯」をまとめて一本の演目として計算すると、新民社が上演した演目は合計254本となった。このうち、繰り返し上演された人気演目は、『悪家庭』『珍珠塔』『家庭恩怨記』『空谷蘭』『馬介甫』などである。内容的には、いわゆる「家庭劇」が目立ち、特に小説からの脚色が多い。また、新民社の主宰者である鄭正秋の創作劇『悪家庭』の上演回数が32回と飛び抜けて多いことがわかった。
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