研究代表者(飯塚)は10月17日に大阪市立大学で開かれた「中国現代文学研究者の集い」で、「『文明戯』研究の現在」と題する報告を行なった。これは昨年、本科学研究費の成果としてまとめた「日本における中国『早期話劇』研究」に沿って知見を述べたもので、多くの隣接領域の研究者から反響を得た。これが契機となり、平成16年1月11日には早稲田大学において、「文明戯研究会」を開催することができた。研究代表者は「文明戯『ナポレオン』の周辺」と題する報告を行なった。文明戯の演目の中で重要な位置を占めるフランス・ロマン派劇に注目することで、文明戯の特徴を明らかにしようという試みである。具体的には、ナポレオンを主人公とする1910年代の劇作品を伝統劇(改良京劇)、文明戯、翻訳劇の三種にわたって検証した。その結果、導き出された文明戯の特色は以下の五点である。1.伝統劇との境界の不分明。2.西洋文明への憧憬。3.ノンフィクションへの関心。4.革命とロマンという主題。5.日本からの影響。なお、この報告の内容はのち、同じタイトルで中央大学文学部『紀要』に発表したほか、中国語に改めたものを3月27、28日に北京で開催された「文明戯シンポジウム」で発表した。研究分担者(瀬戸)も、早稲田大学の研究会に参加し、「新劇・文明戯・通俗話劇・早期話劇」と題する報告を行なった。文明戯の時代区分と関連づけながら、各名称の使われ方の実態を整理したものである。また研究分担者は北京のシンポジウムにも参加し、「『不如帰』と『家庭恩怨記』」と題する報告を行なった。いずれも文明戯の代表作だが、前者は日本からもたらされた演目、後者は陸鏡若によるオリジナル作品で、両者の間には質的な違いがあることが明らかにされた。
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