研究概要 |
今年度の研究実績は以下の通りである。 Shakespeareはequivocationという概念を、Shakespeareの時代からは遠く離れた中世スコットランドの王位簒奪をめぐるMacbethの物語を観客に提示する際の一つの鍵概念として用いたが、equivocationという言葉はMacbethの直接的な材源には見あたらない概念である。周知のようにequivocationの概念は、いわゆる「火薬陰謀事件」に端的に具現化されたカトリック対プロテスタントの対立という同時代の社会・政治的なコンテクストに深く根ざした概念であった。Shakespeareは当時の観客にとって馴染み深かったであろう概念を、アナクロニズムを犯して中世スコットランドの物語を観客に提示するための鍵概念として用いたのである。しかし、equivocationの概念を深く掘り下げてみると、当時の政治的な文脈の中で用いられたequivocationと、equivocationという言葉それ自体が持っている原義的な意味-実はShakespeareが関心を持っていたのはこの原義的意味の方であった-の間にはある微妙な差異が見出される。本研究ではこの差異を詳しく吟味することによって、Shakespeareが観客の観劇意識を形成するためにequivocationという鍵概念を利用したその戦略的意図を探るとともに、Shakespeareが同時代の観客に巧みに訴えようとしたその劇作術の一端を解明した。なお、2の研究の成果は、第75回日本英文学会全国大会(2003年、5月24日,25日、成蹊大学にて開催予定)の研究発表部門で、口頭で発表される予定である。(日本英文学会大会準備委員会から、銓衡結果の通知をいただいております。)
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