この研究の目的は、イギリスロマン派詩人・画家ウィリアム・ブレイクの複合芸術作品において、「自己愛」の概念がどのように描き出されているかを、18世紀当時の自己愛論のコンテクストを考慮しながら、解明することであった。 従来のブレイク研究は「自己愛」の重要性を認識しながらも、その考察を詩ばかりに限定してきた。ブレイク作品は詩+絵という両メディアが合体した複合芸術であり、ヴィジュアルな面を無視することはできない。本研究では、ブレイクの「詩」と「絵」をべつべつに研究する旧来の方法から抜け出し、ブレイクの作品をふたつのメディアが組み合わされた本来の姿で考察する一方法を示せたと思う。 具体的にいえば、ブレイク詩が語る自己愛が、どのように視覚化されて絵となったかを分析したのである。ブレイクの絵にはデフォルメされた肉体がたびたび出現するが、その肉体が、詩で言及される「自己愛」と密接な関係にあることを明らかにした。ブレイク作品のなかで自己愛を具現化するのは、「スペクター」とよばれる登場人物であるが、その人物の肉体がデフォルメされる傾向にあることも、説明がつく。 ブレイクの絵を分析するさい、彼の作品をデジタル処理してコンピュータに取り込んだうえで、緻密な検証を行った。こうして、「自己愛」を軸にして、ブレイクの詩と絵の関係が解明できたと思う。
|