「中世」と「ルネサンス」の時代区分について、実体的連続性、実体的断絶性、歴史表象としての区分という三点に分けて考察を進め、それぞれ以下のような結論を得た。 (1)実体的連続性--言語的基盤から見るならば、ラテン語と英語という二重構造はほぼ変わらず「中世」「ルネサンス」を通底する。もちろん古典的正統ラテン語の復活あるいは英語も中英語から近代英語へという大きな変容はあつたが、知の言語的基盤の二重構造では重要な連続性が存在した。文化的基盤という観点からも、トロイを起源とするヨーロッパに普遍的な歴史的神話とそれに接続するロマンスが厳然と存在し、その限りでは、この面においても連続性が認められる。 (2)実体的断絶性--悲劇という演劇的ジャンルに典型的に現れているように主体の内面の世界への探求という心理的モーメントは、ひとつの断絶として捕らえられるだろう。これは主客の別にたいする意識の強化と言ってもよいが、このことは、逆に見るならば、相容れない矛盾的要素の包含ととられることもできる。これは、古代ギリシアに象徴される異教的要素の積極的導入に通じる。 (3)歴史表象としての区分--「ルネサンス」と「中世」は同時発生的であるが、その表象区分の歴史的根源はペトラルカが直前の時代に抱いた「暗黒時代」という感覚に始まる。その歴史的感覚は、宗教上の「プロテスタント」的批判的精神により研ぎ澄まされ、さらに、世俗国家台頭とともに高まった国民文化形成への意識と密接に関係する。これらの基盤を共有する種々の要素がそれぞれ確立してゆくなかで、「中世」と「ルネサンス」の時代区分は明確化されていった。
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