本研究は近年盛んな同性愛研究の諸成果を踏まえ、英国演劇史ならびに文化研究に適用し、日英両肉の比較文化ならびに歴史研究における新しい視座の構築を試みるものであった。その過程において同性愛演劇とは何かという定義問題に直面した。明確に同性愛を扱った演劇作品は少なく、またそうした作品の受容者も、差別意識の減少した現代においても堅固なサブカルチャーに限定されている。しかし近年、同性愛文学は、異性愛的内容に擬態するという顕著な特性をもつことが確認されており、同性愛文学の定義は、同性愛的要素と異性愛的要素の反転によって生ずる二重性を、ジャンルの基軸とみるものとなった。本研究も、理論的見地から、多数の文献による理論的研究によって、この点を確認するとともに、同性愛を暗示する作品をも研究対象にすることになり、研究対象を演劇史全域に広げることになった。ただしジャンルの拡大を積極的に確認する一方で、実際の研究においては対象を限定するという二重操作が必要となり、今回は、歴史的時期を16-17世紀の転換期、19-20世紀の転換期、20-21世紀の転換期の三期に絞り、その時期の作品を精査することで、時代とジャンルの強固な関連性をある程度まで明確にしえた。また近代日本文化への影響については、16-17世紀の転換期、19-20世紀の転換期の作品の近代日本における受容を調査し、そこに体系的かっ永続的なかたちではなく、断片的あるいは散発的にではあってもきわめて興味深い特徴が見出されることを指摘できるところまで到達した。またこの方面への研究は今後も必要であり、有益な研究成果が期待できることも確認しえた。データベース化も理論的問題の解決の遅れにより、遅延しているが、完成を待って、研究期間内に実現しなかった研究成果のウェブ上の立ち上げを実現する予定である。
|