本年度は本研究の初年度に当たり、理論面での基礎固めを行った。具体的には、まず最初に、本研究の理論的基盤を構成するusage-based modelの提唱者であるRonald W. Langackerに研究代表者の西村が本研究のレビューを受け、あわせて同教授の共同研究者たちと他動性モデルについて討論を行った。 他動性をめぐる現象は、他動性現象を主に支配する動詞述語の研究と切り離しがたいが、動詞という単一の語彙項目の語彙情報の投射として節構造を考える従来の語彙概念意味論的アプローチと形式性に対する指向性で共通していながら百科辞典的意味を部分的に盛り込まれた項との共合成を考える生成語彙(generative lexicon)理論も本研究と関わる可能性があり、Levin&Rapportらの語彙概念意味論とあわせて生成語彙理論の理論的検討を行った。理論モデルとしては、そのほかにBybeeやHopper、Thompsonなどの機能主義的類型論の、談話や使用頻度を取り込んだモデルはLangackerのusage-based modelを広範な言語のデータに適用したものとも言える重要性を持つものであり、その検討も行った。さらに、William Croftのradical construction grammar理論も同じ延長線上にある発展モデルであり、この検討も行った。 こうした理論的研究に加えて、そうしたモデルを部分的に取り込みつつ具体的な現象の分析も行った。西村は通常意味に関わる側面が主に注目されてきたメトニミー現象の文法現象における役割の分析を行い、坪井は、他動性強化の要因としてこれまで注目されることのなかったadversativityが、様々な言語の様々な構文で他動性を強める働きをするものであることを明らかにした。
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