本年度に予定していだ研究課題のうちメトニミー概念のより包括的な規定の提示と、それに基づくいくつかの他動性現象の捉え直しの成果は、「図書」に挙げたものと「研究発表」の最初に挙げた西村による「換喩と文法現象」がそれである。これらにおいては、英語の所格交替などを取り上げて、文法関係の転換を含むいくつかの統語的な交替現象の本質は述語の換楡的な多義性にあることを論じ、文法的な知識には意味的な基盤があり、言語の知識は他の認知諸領域と密接不可分の関係にあることを示した。 本年度の研究課題としては、結果構文の事象拡張という観点からの検討というものも予定していたが、これの成果は、「研究発表」の2番目に挙げた坪井による「受影性と受身」と、3番目に挙げた「受影性と他動性」がその成果である。この二つの論文では、従来属性叙述受動文という名称で論じられてきた日本語のあるタイプの受動構文は、本来動詞のデフォールトの意味においては含意されない変化結果部分を付け足すという、ある種の事象拡張として捉えることによって、属性叙述常道分のいくつかの特徴が説明可能であり、その事象拡張の際に見られる制約が、従来結果構文に関して想定されていた制約と同じであること、及び、事象拡張という観点から捉えることによって、そうした制約の存在理由に自然な形での了解が可能になることを示した。
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