今年度の研究目的の一つは、非典型的他動詞文及び関連構文を分析し、中立的な事象把握においては事象に繰り込まれることのない項が事象に関与するものとして扱われるという現象について理論的な考察を行うことであった。他動的事象としては非典型的ながら様々な面で他動的事象の特徴を示す現象に着目することで、典型的他動的事象には表れづらい言語間の事象認知モデルの異なりをより良く捉え、そこに表れている普遍的側面を浮かび上がらせつつ、これまでの先行研究で見逃されてしまっていた他動性現象の新たな動作原理を抽出することを目指した。これについては、受影性と他動性という、従来相反するものと想定されていたものが、必ずしもそうではないことを、日本語の迷惑受身の分析を通して論じた「雑誌論文」の2番がその成果である。また、他動性現象を換喩の観点から分析することをさらに進めて行った。これは「雑誌論文」の1番と5番がその成果である。 今年度は最終年度に当たるので、まとめとしての一般的な他動性モデルについての理論的考察を行い、理論モデルの基礎固めを行った。具体的には、まず主語概念の再検討であり、これは「雑誌論文」の3番がその成果である。これと対になる形で述語概念の再検討も行い、この成果は「雑誌論文」の4番である。さらに、態と他動性一般についての再検討も行い、「雑誌論文」の6番としてその成果を発表した。
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