エドワード朝においてイギリスの国家像がイングランドの田園を基盤として、田園主義的価値観のもとに形成されていった経緯を追跡しようとする本研究は、ヴィクトリア朝後期から1920年代にかけて書かれた都市論、退化論、産業革命論、「土地へ還れ」運動、農村論、田園都市論、民族再生論といった、現在においてはすでに忘れ去られたおびただしい第1次資料の広範なる読解を絶対的な必須条件としている。 昨年からひきつづいて、これらのテーマにかんする膨大な第一次資料の収集につとめながら、時間をかけてそれらの読解にあたった。とくに本年度に力をいれたのは、Arnold ToynbeeのLecture on the Industrial Revolution in Englandと、C. F. G. MastermanのThe Condition of Englandについての研究だった。前者は、1884年の時点で、イギリスの都市と田園の関係を決定的に変えた「産業革命」を、はじめて学術的に定義づけた本で、フォースターやロレンスなど、20世紀初頭の作家たちにも大きな影響力をおよぼした。その影響力の内容を明らかにすることができたと思う。 マスタマンの『イギリスの状況』は、フォースターの『ハワーズ・エンド』の1年前に書かれたもので、これもフォースターに大きな影響をあたえた本である。両者のあいだの主題的モティーフ的イメージ的類似性を拾いながら、影響関係がどこに見られるかを具体的に探った。
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