研究概要 |
本年度は、前年にひきつづき、イングリッシュネス概念が成立してきた、とくに1880年代から1920年代までの一次資料の収集と読解を行なった。なかでもイギリスの日刊紙Timesと挿絵入り週刊誌Punchの、およそ50年にわたる記事のうち、イングリッシュネス概念と関わる記事を読み進めることができた。 また、ほぼ同時に公刊されたE.M Forsterの野外劇(England's Pleasant land : A pageant play,1940)、および野外劇をモチーフとしてもっているVirginia woolfの小説Between the Acts(1941)と並行して、野外劇(pageant)の歴史を研究することができたのが、大きな収穫だった。pageantが1900年代のエドワード朝時代に成立したジャンルであり、そのジャンルの成立が田園を中核としたイギリスの国家像の成立と密接に関連する出来事であることが、TimesとPunchの記事によって実証的に確認されたからである。この点については、1910年に出版されたE.M.ForsterのHowards Endの作品解釈とも関わることなので、最終的な報告に反映させることができるはずである。 さらに、今後は、Virginia WoolfのMrs Dalloway(1925)という作品を、イングリッシュネス概念の成立という観点から研究するつもりである(窪田憲子編『ダロウェイ夫人』に掲載予定)。イングリッシュネス概念の成立に大きく寄与したイギリスの首相Stanley Baldwinが登場するこの作品のなかで、その概念がいかなるあつかいをうけているかは、「わたしは田舎よりもロンドンを歩くのが好きだ」という主人公の言葉のなかに端的に見てとれる。同じブルームズベリ・グループに属するWoorlとForsterの作品を比較しながら、より重層的なHowards End論をめざしたい。
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