本研究は、19世紀アイルランドの表象(representation)--特に、「ナショナリズム」(nationalism)像--に注目して、19世紀アイルランド文学(およびイギリス文学)に新たな見方を提供する試みである。19世紀イギリス文学に現われるアイルランド像と、19世紀アイルランド文学に現われるアイルランド像とを、「ナショナリズム」の観点から、文学作品のテクスト(風刺漫画などの図像も含む)に即して綿密に分析する。 本年度は、3年間の研究期間の初年度であり、以下の1-3の作業を行った。 1 アーノルド、ジョージ=エリオット、ディズレイリ、トロロープなどの小説、評論等に加えて、スコットやディケンズらの作品テクストから、イギリス文学に現われたアイルランド(人)像(ステレオタイプ)を探り出し、分析を行った。また、モーガン夫人、トマス=ムア、レ=ファニュ、ブーシコーら、主に、文芸復興運動以前の作家の作品テクストから、アイルランド文学に現われたアイルランド(人)像(自己像)を探り出し、同様に、分析を行った。同一作家の中でのその像の変化、作家間での共通点・相違点を、整理し比較・検討した。 2 19世紀イギリス/アイルランドの文化史、政治・社会史に関する研究書・資料を合わせて読むことにより、反植民地主義や国民国家形成の動きの中で、アイルランドの自己像とステレオタイプ、「ナショナリズム」とアイデンティティーを、多面的に、事実に即して把握することをめざした。 3 1と2の作業を総合的・立体的に検討した。フランス革命やユナイテッド・アイリッシュメンの蜂起、世紀半ばの大飢饉や、その後の、フィニアンなどによる独立運動、それらが及ぼす影響にも、特に留意した。
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