研究概要 |
本年度の研究実績は以下のとおりである。 (1)ブランウェル・ブロンテの初期作品のうち、後のアングリア物語の舞台となる点で重要な意味をもつ散文物語のひとつ『若者たちの歴史』('The History of the Young Men',12.1830-5.1831)を取り上げた。同じ題材を扱ったシャーロットの作品と比較検討し、姉弟の創作における影響関係を論じた他、とくにアフリカ原住民に対する視点に両者の違いを認め、ブランウェルの作品世界の特徴をまとめた。 (2)監訳『未だ開かれざる書物の一葉--シャーロット・ブロンテ初期作品集II』(鷹書房弓プレス、2001年)の出版。表題作の他に「緑のこびと」が収録されている。いずれも本邦初訳であり、ブロンテ初期作品研究に資するところ大である。 (3)論文「ブロンテ初期作品に見る植民知的要素」『シャーロット・ブロンテ論』(中岡洋・編、開文社、2001年)所収。ポスト・コロニアリズムの視点から、ブロンテ初期作品において周縁に位置づけられた二人の異邦人クォーミナとゼノビアの意味を論じている。 (4)論文「鏡像を見つめる女--シャーロット・ブロンテの『ヴィレット』を読む」『イギリス小説のインテリア』(2002年5月発行予定)所収。『ヴィレット』に頻出する鏡について、その意味と役割を主人公ルーシー・スノウの自己確立と絡めて読み直している。 (5)英論文'The Brontes in Japan:How Jane Eyre was Received in the Meiji Periodイギリスブロンテ協会発行の学術雑誌Bronte Studies,vol.27に掲載予定(現在、校正中)。明治中期にJane Eyreの抄訳が紹介されながらも不評のため連載中止に終わった原因を、当時に日本の文壇の状況、読者の受容、女性の社会的地位、家庭のイデオロギー、その他のコンテクストから分析している。 (6)論文「明治期のブロンテ受容--『ジェイン・エア』を中心に」『滋賀英文学会論集』(校正中、2002年3月発行予定)明治中期に『文芸倶楽部』に初めて紹介されながらも不評に終わった水谷不倒の翻訳「理想佳人」を中心に、当時の日本の受容形態を論じている。(5)と一部重なる部分もあるが、翻訳問題を中心に据えた別の論文である。
|