本年度は、研究計画通り、二十世紀後半の文学作品から「アメリカン・サブライム」の表象をできるだけ網羅的に抽出し、その変遷の軌跡を通時的に描く作業を進めた。前年度の研究実績を踏まえたうえで、現代アメリカ文学の代表作を集中的に分析することによって、二十世紀後半において、従来の「アメリカン・サブライム」の表象にいかなる捻りがなぜ加えられ、またどのような転移がなされたのかを明らかにし、ポストモダン・メディア社会における新たなアウラの発現の本質とその問題点を考察した。 具体的には、トマス・ピンチョンの『重力の虹』におけるロケットやテクノロジーに対する崇高美について、デリーロの『アンダーワールド』と接合点を求めるとともに、ポール・ヴィリリオの論考を視野に入れつつ、時間、速度、情報という観点から、リチャード・パワーズの文学を再考した。それと並行するかたちで、本年度は、収集した資料から特に、美術、写真、デザインなど視覚芸術のテクストにおける「アメリカン・サブライム」の表象の分析を、主として共時的側面から、文学テクストと有機的に関連づけながら行った。 本年度における研究成果は、「フレームの彼岸から自伝の暗室----『舞踏会へ向かう三人の農夫』における複製技術時代の死と肖像」、「メディア・ジェンダー・パフォーマンス----『ボディー・アーティスト』における時と消滅の技法」、"Welcome to the lmploded Future : Don DeLillo's Mao II Reconsidered in the Light of September 11"の三本の論文にまとめることができた。
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