本年度は、研究成果を共著2冊と学会誌に発表することができた。アメリカ学会の英文学会誌に掲載された"Welcome to the Imploded Future : Don DeLillo's Mao II Reconsidered in the Light of September 11"においては、9.11同時多発テロを受けて発表されたDeLilloのエッセイ"In the Ruins of the Future"を踏まえ、世界を震憾とさせたテロリストによるナラティヴの占有と新たなアウラの発現に危倶を抱いてきたDeLilloが、いかにしてテロを、消費やメディアに彩られた「アメリカン・サブライム」の内破と位置づけ、脱構築的に彼らに対抗する物語を書き返すことを模索してきたかを考察した。「メディア、ジェンダー、パフォーマンス-The Body Artistにおける時と消滅の技法」では、時間と主体の関係性を根本的に問い直すThe Body Artistの主人公が、いかにして内部に馴致不可能な他者を抱え込み、恣意的に捏造された反復的な模倣の構造それ自体を炙り出すことによって、「アメリカン・サブライム」を脱構築するに至ったかを検証した。「フレームの彼岸から自伝の暗室へ-『舞踏会へ向かう三人の農夫』における死と複製のヴィジョン」においては、反復と複製と同時性のアウラに彩られた二十世紀の検証を試みるPowersの作品を取り上げ、目的地へ直線に到達する反復可能な速度術ではなく、移動過程における反復不可能な自意識の迷宮にこそ、「アメリカン・サブライム」を内破させる契機が潜んでいることを論証した。
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