科学研究費補助による表記の研究の最終年度にあたる今年度は、これまでの研究活動を踏まえ、アメリカ文学、映画、写真、アート等から抽出した「アメリカン・サプライム」の表象を、通時的かつ共時的に総括し、それらがいかなるアウラの発現を引き起こしてきたかを総合的に分析した。その過程において、アメリカ的「崇高美」の表象にいかなる捻りが加えられ、現在どのようなかたちで文化的ディスコースとして作動しているかを具体的に考察した。その際、これまで崇高とされてきたフロンティアの大自然とは対極に位置するメディア、テクノロジーが、新たな「自然」として、いかにアウラの発生と共犯的に関わっているかを浮き彫りにした。そのような視座から、本研究の議論を、現代アメリカ文学において大きな影響力をもつDon DeLillo、Thomas Pynchon、Paul Auster、Richard Powersらの著作に収斂させ、アメリカ的「崇高」のディスコースが、グローバリズムやアメリカの覇権といった問題といかに密接に絡みかあっているかを歴史的、政治的文脈をも射程に入れ論じた。 具体的な業績としては、Derrida、Zizekを援用しつつ、DeLilloの最新作Cosmopolisにおける身体意識の変容をサイバー資本との関係において論じた論考を共著『病いと身体の英米文学』に発表。併せて、『英語青年』の「海外新潮」においてAnster、DBC Pierre、Nicholson Baker、Robert Coover、カオス理論、DeLilloの戯曲等を論じ、身体論とメディア論の接合を試みた。また、共著『ポストコロニアル文学の現在』においても、同様の視座からMargaret AtwoodとMichael Ondaatjeを分析し、第43回日本アメリカ文学会全国大会、第37回阪大英文学会大会のシンポジアにおいて、DeLillo文学の「弾道」を検証した。
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