研究課題
基盤研究(C)
今年度はマイケル・ラドフォード監督が2005年に制作した『ヴェニスの商人』を研究した。この映画はホロコーストを経験した20世紀の人類にユダヤ人の抑圧の意味を問い直させるだけでなく、現代において宗教の名においてくり返されるテロリズムの悲惨さもあらためて考えさせる。この劇は日本人にとっては明治以来繰り返し上演されてきた劇であるが、浅利慶太が1968年に演出した時には「私には、シャイロックはどうしても悪人に思えない」とかいて、悲劇的なシャイロックを演出している。ラドフォードも犠牲者としてのシャイロックを描き出し、現代の宗教の違いによる悲惨な争いに警鐘をならしている。また、ゼフィレッリ監督の『じゃじゃ馬馴らし』(1967)を詳細に鑑賞し、日本人としてのどのような知覚反応があり得るかを、中村の感性をもとに検討した。その結果、映画におけるペトルーチオの貧しさが、劇全体の解釈に大きく影響を与えていることを発見した。また、『オセロー』について場面ごとの中村の反応を日本人のひとつの観客反応として詳細に記述し、映画作品分析の基礎的作業をおこなった。マイケル・ゴーマンはアメリカ人として受けた教育のなかでシェイクスピアが占めていた位置を検討し、それまで文化的にもよそよそしかったシェイクスピアが、ガーランド・ライト演出の『ハムレット』演劇の経験によって急に身近になったことを語る。その体験を核として、1990年からの10年間に公開された3本の『ハムレット』映画を比較検討し、それぞれの映画の特徴を明らかにしている。
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Shakespeare News Vol.45,No.2
ページ: 27-30
SHAKESPEARE NEWS VOL.45. NO.2