本研究目的の一つであった、同時代の詩作品を分析することで政治、宗教と人間精神との相互関係について明らかにすることに関しては、アンドリュー・マーヴェルの詩を対象として、歴史の流れの中でオランダをカトリックの権力から解放してプロテスタント勢力としたオラニエ家が17世紀中葉には英国王党派と血族関係を有するようになり、さらにオレンジ党にその流れが引き継がれることでオレンジが表象する政治・宗教的意味合いが変化し、それが当時の文学作品の効果に及ぼした具体例を提示した。さらに、1653年の夏、クロムウェルの共和国における外交政策が反オランダ政策から反スペイン即ち反カトリック政策への移行期にあったことを実証した。また、ヘンリー・ヴォーンを対象としては、その作品を宗教的、思想的脈絡の中で読解し、注釈を施しながらの本邦初の翻訳作業(『光と平安を求めて- ヘンリー・ヴォーン詩集』は費用の面で出版の目処がたたない。)を行った。また、2度の国際学会への参加を通して研究者との国際的ネットワーク作りの基盤ができたことで、17世紀政治思想、特に「自由思想」「共和制思想」の発展と17世紀宗教思想上の「自由意思」の概念形成とのつながりを探る端緒を開くこともできた。いま一つの研究目的である、近代の科学的思考方法が確立するに伴なって、「偶然」の概念が再認識されていく状況と「摂理」の概念が変容していく精神史との関連を明らかにすることに関しては、最終的実績報告への途上ではあるが、マーヴェルの作品中に表れた寓意画的表象を具体例として後者の概念が構築に、前者が脱構築へと向わせていることを指摘できた。そして、異端的セクト・カルト集団が数多く出現した時代的状況と摂理の関係を明らかにするという目標に関しては、17世紀の霊魂伝遺説を軸にしてRichard Overtonのパンフレットとロバート・ヘリック等の文学作品を有機的に関連させて説明することに成功した。
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