研究概要 |
まず、D.H.ロレンスの『カンガルー』(1923)の再読を行い、作品における生成パターンと否定神学的言説との関係、および自己言及性の特徴を明らかにするために、「絶対性」と「相対性」をはじめとして、テクスト内で構造化された様々な二項対立の整理を行った。一方、この作業と併行して、Robert Darroch, D. H. Lawrence in AustraliaやJoseph Davis, D. H. Lawrence at Thirroul等の資料収集を行い、『カンガルー』における群集表象を当時のオーストラリアの歴史社会状況の観点から再考する可能生を探った。 また、来年度、アメリカを舞台にしたロレンス作品、『セント・モーア』(1925)と『翼ある蛇』(1926)の読解を行うにあたり、近年アメリカを中心に注目を集めているエコクリティシズムならびにその思想に親和性を持つ文学者等を研究しておくことは有益であると判断し、福岡ロレンス研究会『緑と生命の文学 ワーズワス、ロレンス、ソロー、ジェファーズ』(松柏社、2001年)の書評を引き受け、この著作で取り上げられている4人の作家の自然・人間観を著者たちの見方を参考にしながら検討した。特に、ロレンスがなぜか『アメリカ古典文学研究』で考察の対象から除外したソローや、ロレンスと同時代人でありその'inhumanism'の思想がロレンスのものと興味深い類似を示すジェファーズの世界観を視野に入れておくことは、ロレンスのアメリカ観、ひいてはそこにおける群集表象の特質を解明する上で極めて有効であると思われる。
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