15年度は、日系作家を標榜したオノト・ワタンナの実姉で、sui sin Farの中国系ペンネームを用い、アメリカの中国系社会を描いたEdith Eatonのチャイナタウン表象について研究を進めた。 カリフォルニア州のチャイナタウンほど、図像や写真や、小説のなかに、<The Chinese Other(他者なる中国)>して取り込まれたものもない。「地下トンネル」のまとこしやかな噂が流れるなか、様々な作家たちがチャイナタウンを、犯罪の都市/迷宮として描いた。やがてこのチャイナタウン像は通俗作家たちの手により、悪の権化Fu Manchu、名刑事Charlie Chanを結実する。 Sui Sin Farのチャイナタウン像は建築的には、地下ではなく、むしろ二階のバルコニーを舞台に使いる。バルコニーをよく用いたのは、それが内と外のちょうど中間に位置づけられる場所だからであり、また事実チャイナタウンの「異国情緒」観光路線の一つの名物になっていたからでもある。作家自身のユーラシアン性ともそれは結びつく。また、子供をよく描いたという点では、Sui Sin Farの描いたチャイナタウンは、不思議なほどArnold Gentheの撮ったチャイナタウン写真の世界と通じることも確認した。ゲンテの写真は、貧困/犯罪の都市というイメージのほかに、祝祭の街、子供/親の街といった「ファミリー」がくらすチャイナタウンというイメージをも生み出した。が、たとえばErnest C.Peixotteのようなイラストレイターは、ファミリーのチャイナタウンを犯罪のチャイナタウンへと回収した。以上については現在論文を執筆中である。 さらに今年度は、昨年度までの研究成果をもとに学会発表を行った。アジア系アメリカ文学研究会全国大会(9月)ではヨネ野口とエトウ・ゲンジロウについて、ドイツ文学会全国大会(10月)ではオノト・ワタンナ論を発表した。
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