本研究は、W.B.イェイツのアイルランド文化観にかかわる以下のような6つの課題を検討することにより、イェイツの文化観を解明することを目指した。 1.「文化の統合」("Unity of Being")の概念規定。2.「文化の統合」の可能性についてのイェイツの見解。3.イェイツの文化観と「大衆文学」観。4.「プロテスタント支配体制」とアイルランド文化との相互関係。5.ポストコロニアル批評と文化的混交 6.文化的混交と文化の統合との相互関係 以上の課題を検討した結果、プロテスタント支配体制の文化の代表者とみなされてきたイェイツが、実は、終生、アイルランドの文化が混交的であることの現実を直視し続け、この現実に対して二律背反的な姿勢を示したことが裏づけられた。彼は、一方で、民族文化的な混交を差別視する19世紀以来の否定的混交論にも似た見解を抱きながらも、他方で、アイルランドの混交的な現実に直面することなしには優れた詩は生まれないとも考えた。また平和理に南北の統一を実現して、アイルランドの真の独立を達成するためにも、文化的混交の現実から調和した文化体系(=文化の統合)を創造することを夢想してやまなかった。彼が、同時代の大衆文学を嫌悪したのも、それが、概して、混交的な現実に甘んじて、調和を希求しようとしないリアリズム文学であったからだ。彼のアイルランド文化観はその文学観(詩学)と軌を一にしていたと言える。
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