研究概要 |
本研究の当初の目的は、W.B.イェイツのアイルランド文化観のもつ限界と可能性を様々な角度から検討することであった。その成果として3編の論文を発表した。概略は次の通りである。 1."Yeats's Subject Positions on Irish Cultures in his Poems, with Special Reference to the Deixis that"という題名の既刊論文において、イェイツが詩で愛用した指示代名詞の"that"の機能を分析した。結論として、南北アイルランドの統一を構想する上院議員イェイツが夢想していた「全アイルランドを代表する文化体系」が、混交的なものであることを強調した。 2.既刊論文「文化混交論序説」と「イェイツ-アイルランド文化の雑種性-」(『英文学の内なる外部-ポストコロニアリズムと文化の混交-』所収)において、イェイツの文化混交に対する態度を検討した。前者では、19紀以来の否定的な文化混交論と近年における内外の肯定的な文化混交論とを比較検討し、両者が似て非なるものであることを論証した。後者では、プロテスタント支配体制の文化の代表者とみなされてきたイェイツが、実は、終生、アイルランドの文化が混交であることの現実を直視し続け、この現実に対してアンピヴァラントな姿勢を示したことを実証した。結論として、イェイツは、一方で、19世紀的な否定的混交論に類似した見を抱きながらも、他方で、平和理に南北の統一を実現して、アイルランドの真の独立を達成するために、混交の現実から調和した文化体系の創造を夢想したことを力説した。
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