1 今年度は当初の計画通り、科学研究費補助金の外国旅費を用い、フランスにおける調査研究を行った。その目的は、第1に日本国内では参照の困難な第1次文献の調査、第2にフランスに保存されているパスカルの計算機の現物調査であり、どちらも満足のいく成果を収めた。 (1)文献調査については、大法官セギエへの『献呈の手紙』および使用者のための『手引』の原本を、パリとクレルモンフェランにおいて参照し、二三の疑点を解明した。また、パスカルの同時代人ジャン・フランソワ神父による数え札計算法の解説書(マイクロフィルム)など、同時代の資料若干を調査できた。これらの成果の一部は下記の公刊論文に取り入れてあり、残りの部分についても次年度の論文に取り込む予定である。 (2)計算機の現物調査は、パリの国立工芸院博物館副館長ブリュノ・ジヤコミ氏に依頼して計算機実物の操作に立ち会い、繰り上げ装置の働きを確認して自説の裏付けを得た。これは望外の成果であった。また、クレルモンフェランの教育資料センターにおいては、計算機関連の写真資料をCD-Romの形態で入手し、学術目的での印刷公刊許可を得た。これらの成果は、研究最終年度(平成15年度)の報告書に取り込む予定である。 2 以上の成果の一部をふまえ、論文「パスカルの計算機と数え札計算法の批判(その1)」を公刊した。この論文では、パスカルの数え札批判を瞥見した後、その批判の当否と計算機の独創性を判定するために、同時代の資料のひとつ、ジャン・フランソワ神父著『算術論』(1653年初版)を検討した。特に、乗除算における数え札計算法の実際を詳しく図示し、その問題点を考察することで、計算機開発の意義を探る基礎とした。
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