研究概要 |
今年度は、本研究の初年度にあたり、トルバドウールの詩歌集であるフランス国立図書館のC写本(BNF. Fr. 856)における、オジル・ド・カダルスという詩人の占める位置を確認・検討し、作品解釈に本格的にとりかかるための資料収集の作業をおこなった。 具体的には、まず当該写本におけるオジルの作品についての作者措定が、その目次においてピストレタPistoletaという詩人に、写字生自身により訂正されていることに着目した。そしてその目次と本文の相違を、写本全体から見通すために、『早稲田大学図書館紀要』第49号に、訂正された部分の一覧を提示し、写字生の意図を探ってみた。また、今年中に,発行予定の『トルバドウール詩歌集』(大学書林)を校訂し編纂した。これは、オジル・ド・カダルスを含むこの写本全体の鳥瞰になるはずである。 資料としては、バーミンガム大学のピーター・リケッツ教授の編纂になる電子資料COM1を購入し、中世オック語の語彙を広い視野から検討し始めたところである。COM1は、トルバドゥールのコーパスをすべて収録した画期的な企てで、このあとに非抒情詩型の作品(COM2),散文作品(COM3)が予定されている。もちろん異文(ヴァリアント)は含まれないから、精密な読解のためには、FEWなど語彙を網羅した辞書を補助的に利用しながら、じっさいにに各校訂版や写本にあたる必要がある。これらの研究をもとにして、7月のメッシナ大学でのAIEO(国際南仏語南仏文学研究学会)での発表の基盤が徐々に整いつつある現状である。
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