研究概要 |
今年度は,研究構想の精密化とデータ集作成を行った。研究目標であるドイツ語文形成の規則体系は,実際の言語運用を通してしか「見る」ことができない。したがって,様々な観点から検討した結果,具体的な分析作業としては,聞き手が言語形式から文意味を再構築するメカニズムに焦点をあてて行うのがもっとも実際的であるとの知見を得た。目に見えるもの(言語形式)から出発し目に見えないもの(文意味)へと進むのである。「実証的分析」に最も近い試みとも言える。 言語形式から文意味を再構築するメカニズムにおいて重要な点は,言語形式がすべての意味情報を表示するわけではないということ,また,文中の語彙の単純加算によっても文意味が再構築できないということである。後者の点を別の言葉で言えば,文意味形成には抽象的な文構造も関与しているということである。ただし,文構造の確定は実際上,文構成素(名詞句,前置詞句など)の語彙レベルを観察することによってのみ知ることができる。したがって,当該の間題提起に正しく答えるには,動詞のみならず,文構成素の語彙レベル的分析も不可避ということになる。 以上のような知見などに基づき,実際のコーパス分析も始めている。コーパス分析により,たとえば動詞と結合する文構成素の間には--語彙レベルで見た場合--かなりの制限があることが確認できている。文における語句結合は決して無限的な拡がりを見せるのではなく,かなり一定数の--頻度的観点を入れればなお一層限定された数のカテゴリーに収斂できる。年度末には,中間作業結果として,いくつかの観点から整理した基礎動詞データ集(290ページ)も作成した。
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