研究概要 |
関連文献の購読を通じてデータに基づく実証的な研究をまとめる際の理論的な枠組みの重要性を認識させられた.また,対照研究の方法に関しても「一方の言語の眼鏡をかけて,他方の言語を見る」のは方法論的に決して誤りではなく,むしろ重要な観点であると説く論(井上優「日本語研究と対照研究」)に出会い,対照研究の方法論についても再考させられた.2年目は実証的な研究を定式化する枠組みを確立することをまず目指したい. 日本語のデータ検索に関しては,技術的な問題もあり当初の予定より遅れているが,ドイツ語に関しては,語義と統語構造(特に4格目的語化)および前綴りの分離・非分離との関連でdurch-,um-,unter-,uber-を持つ約700の動詞のデータを整理し,それに基づく考察の一部を2001年10月の日本独文学会で発表した.データはさらに整理し,語学教育にも使える資料として残しておきたい. 本年度の研究のまとめとした論文「結合価と構文ー日独対照の観点から」では,動的な出来事を表す文に対象を限定した上で,結合価と構文の関係という観点からドイツ語の文と日本語の文を比べ,ドイツ語では構文主導で特定の意味構造の文が作られる傾向が強いが,日本語では動詞の結合価に従って文が作られる傾向が強いということを示し,これと関連してドイツ語では「動詞的意味」を動詞以外の言語手段で表すことが多いが,日本語では「動詞的意味」はあくまでも動詞が表すということ,およびドイツ語の動詞は構文に対する柔軟性が高いが,日本語の動詞は構文に対する柔軟性が低いということを述べた.このような傾向の違いは,出来事の参与者の内のあるものを統語的に卓立した形式で表すことにより際立たせようとする傾向が強いか弱いかという類型論的な違いとも関連していると考えられ,今後さらに追求していきたい.
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