戦後の日本におけるゲーテ受容

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13610623
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 高橋 義人 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (70051852)
• キーワード: ゲーテ / 石川達三 / 三島由紀夫 / ファウスト / ホムンクルス / クローン人間 / マクベス / 四十八歳の抵抗

研究概要

平成14年度には、主として石川達三と三島由紀夫と手塚治虫におけるゲーテ受容を研究した。
石川達三の『四十八歳の抵抗』はゲーテの『ファウスト』を下敷きにして書かれているが、しかしその主人公はゲーテのファウストとは似て非なる人物である。ゲーテのファウストが快楽などに満足せず、精神的に高いものを目指してひたすら努力したのに対し、『四十八歳の抵抗』の主人公は、ファウストが禁じた快楽の甘い蜜を吸おうとしている。このような主人公のアヴァンチュールを通して石川達三は、1950年代の日本のサラリーマンのわびしい生活と夢、そして当時の風俗を描き出している。石川達三が描いた風俗がどこまで正しいのか確かめるために、慶応大学の前田富士男氏らの協力を得て、1950年代の日本の風俗を写した絵画や写真に当たった。
三島由紀夫の最初の「わがファウスト」と言うべき「卒塔婆小町」を『ファウスト』との関係を踏まえて演出した例がないかどうか、最近の蜷川幸男の演出にいたるまで上演史を調べたが、そのような演出は残念ながら見当たらなかったものの、三島の第二の「わがファウスト」と言うべき『禁色』については、共立女子大学の大石直記氏に色々と教えていただくことができた。
手塚治虫は『ネオファウスト』のなかで第1部のみならず、第2部--特に人造人間ホムンクルスのモティーフ--も取り上げ、これをクローン人間の問題として描いた。この点に関する興味深い文献を見つけた。シェイクスピアの『マクベス』とゲーテのホムンクルスを結びつけた論文である。魔女たちはマクベスに、「母親の腹から生まれた者は、マクベス、お前を殺せない」と語るが、クローン人間はまさしく「母親の腹から生まれなかった者」である。この論文を援用しながら、手塚治虫の『ネオファウスト』とゲーテの『ファウスト』第2部の関係を扱った。

研究成果

• [文献書誌] Yoshito Takahashi: "Goethes,Farbenlehre"und der Ausdruck der Natur"Goethe-Jahrbuch. Bd.118. 247-259 (2002)
• [文献書誌] 高橋 義人: "ゲーテと錬金術"モルフォロギア. 24号. 16-27 (2002)
• [文献書誌] 高橋義人: "かたち・リズム・おもかげ--三木形態学と芸術学"Saison Art Program Journal. 9号. 28-41 (2002)
• [文献書誌] Yoshito Takahashi: "Vorwort des Herausgebers"Neue Beitraege zur Germanistik. Bd.1Heft 1. 9-11 (2003)
• [文献書誌] Yoshito Takahashi: "Goethes Kritik an die modernen Wissenschaften in "Faust II""Akten des Asiatisehen Germanistentagung in Beijing 2002. Bd.1(近刊). (2002)
• [文献書誌] Yoshito Takahashi: "Goethes "Geschichte der Farbenlehre" und die Kulturwissenschaft"Neue Beitraege zur Germanistik. Bd.2 Heft 3(近刊). (2003)
• [文献書誌] 高橋義人, 芳賀日出男: "ヨーロッパ古層の異人たち"東京書籍. 232 (2003)