本研究ではドイツ語圏諸国、特にドイツとオーストリアの打情詩サイトと社会批判的メッセージソングの歌詞サイトをWebサイトのコンセプト、デザイン、機能、情報発信方法などについて総合的に分析し、言語作品発信媒体としてのインターネットの可能性と問題点を明らかにしようとした。抒情詩サイトについては言語による詩の紹介と解釈、画像つきの詩人の紹介、音声による詩の朗読などマルチメディア型のサイトが増え、サイトに掲載される詩人と作品の数が増加していることが確認できた。また公的機関や大学による抒情詩のeラーニングサイトも次第に充実し、アメリカの大学ではプロジェクトとして抒情詩サイトを構築していることも明らかとなった。この種のサイトはWebデータベースによる検索システムを備え、詩のテクストページと詩人の解説ページに相互リンクを張るなどして情報の取得の簡便化が図られている点が特徴である。しかし詩を読むための媒体としてWebサイトが適しているかどうかについてはいくつかの疑問点が残る。最大の欠点は詩を読むことによって得られる「言語芸術体験」の希薄化である。また情報量が多すぎて読書体験の集中度が落ちることも欠点として挙げられる。さらに肉体的に見て目の負担が重いことも大きな欠点である。また日本人がドイツ抒情詩Webサイトを通して、ドイツ語抒情詩を受容する際には現状では技術的また言語的な困難が大きく、作品翻訳を備えた抒情詩サイトを日本で独自に構築することが必要であることも確認できた。社会批判的なシンガーソングライターのWebサイトについては、サイト数が現状ではそれほど多くない点が確認できた。これは静止画、音声、動画などによるマルチメディア型のサイト構築のためには専門的な知識が必要であり、抒情詩サイトの構築に比して技術的な困難が大きいこと、また著作権の問題が大きいことが主な原因であろうと思われる。社会批判的ポピュラー音楽作品については、歌詞のみならず音楽が占める価値も高いことから、音楽を伴った歌詞紹介が重要であるが、そのことは著作権を侵害することに通じてしまう。 以上のことから抒情詩の情報発信媒体としてのWebサイトは検索には適しているが、鑑賞には適しないことが指摘できる。また社会批判的ポピュラー音楽の情報発信媒体としてのWebサイトは音楽や動画が伴う場合には有効だが、歌詞のみの発信では打情詩サイト以上に効果が薄いということが結論として得られる。
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