研究概要 |
近世から現代に至るドイツ語の歴史的発展の特徴的な点は話し言葉的性格から書き言葉的性格への傾向を強めたことにある。これは近世社会においては文書によるコミュニケーションが重要な役割を果たすようになった為であると考えられる。本研究は現代ドイツ語の成立を社会言語学的視点からその出発点である近世社会のコミュニケーション状況との関連において解明しようとするものである。 本年度の研究成果は以下のような知見にまとめることができる。 1)言語変化に関する諸理論を検討した結果、言語変化の研究には社会変化に関連づけた社会言語学的視点が有効であることが確認できた。 2)16世紀の宗教改革運動にあってはFlugblatter(アジビラ)による言語的啓蒙が重要な役割を演じたことが明らかとなった。 3)J.エック,H.エムザーらのカトリック神学者とM.ルター,H.ザックス,J.ツヴィングリらの新教側の思想家との論争書を分析した結果、ともに啓蒙的効果を狙ってさまざまな修的手法を駆使してはいるが、簡潔な構文を用いたきわめて簡明な文体であることが明らかになった。 4)エック,H.エムザーらのカトリック神学者とM.ルター,H.ザックス,J.ツヴィングリらの新教側では、保守的な立場と革新的な立場を反映して、言語的論証の手法にも異なることが認められた。 5)日本学術振興会日独科学協力事業により2003年3月マタイアー教授とともにハイデルベルク大学で開催したセミナー「言語変化と社会変化-現代ドイツ語の根源」の参加者の発表を論文集にまとめ、平成16年度日本学術振興会科学研究費補助金研究成果公開促進費を得て、ミュンヒェンのiudicium社から出版することができた。
|