研究概要 |
従来の比較文化研究は,異文化間で歴史上において現実にあった影響関係に限定して比較研究してきた。しかし,歴史上はいかなる関係もなかった文化現象を異文化間で対照させて比較することも可能だ。それによって,異文化間で思いもよらなかった対応関係にある文化要素が発見され,また,その対照によって両文化の差異を明確にすることで,それぞれの文化を単独でみていたのではわからなかった当該文化の特色が浮き彫りとなる。従来の比較文化の研究が前者の歴史的影響関係の研究に自己限定するきらいが強かったのは,19世紀以来の人文科学の基幹的方法論となってきた実証主義へのこだわりがあったからだ。ところが,日常の経験における異文化との出会いは,過去の影響関係の有無とは無関係に,異質の文化に直面することが多い。その際,われわれはこの異文化要素(スープ)を理解し説明するにあたって,自分の文化にある要素からそれに相当するもの(みそ汁)を思い浮かべて対照することで理解しようとする。これはまさに対照の方法による比較であり,この日常的経験を学問化することにより,対照文化比較の新しい広大な研究領域が拓けてくる。これに類似する方法はすでに対照言語学で用いられているが,これを文化比較一般に拡大し,方法論的には「発見的方法」(Heuristik)を再評価することで,発信型ドイツ語圏文化学を基礎づける見通しが立った。さらに,とりわけ近代以降の西洋文化と非西洋文化との比較では,実証主義にこだわると,西洋文化が非西洋へ流入するという西洋を主とし,非西洋を従とする一方的関係でとらえられがちとなり,ここにも西洋中心主義の片鱗が残る。これに対して異文化の対照研究では,比較される文化は相互に対等の関係に位置づけられ,多文化主義の原理に適う文化比較が可能となる。
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