研究概要 |
鎖国時代にオランダ人として来日していたドイツ人ケンペルやシーボルトとの出会いから,開国を経て明治以後の近代化におけるドイツ語,ドイツ文学,ドイツ文化に対する日本人の関わり方とその姿勢を歴史的に検証し,とりわけ,20世紀初頭にドイツに留学した第1世代の日本人ゲルマニストがもたらした文献学的実証主義が,今日まで日本のゲルマニスティクの研究を規定しており,それが,ドイツのゲルマニスティクから日本のそれが自立できないでいる根源的問題であることを論証した。その成果に基づいて,日本各地の研究者に加えて,アジア・ゲルマニスト会議が北京で開催されたのを機に,アジアの研究者たちとも意見を交換し,議論を重ねた。その結果,日本のゲルマニスティクをドイツのそれの単なる日本語ヴァージョンではなく,研究者の依って立つ文化に根ざした独自の関心に基づいて,ドイツで,ひいては欧米で行われている研究とは異なる成果を生むためには,我々に独自の概念や方法論,研究の枠組みを構築することが必要であるとの認識を共有することができた。そうした新しい「日本のドイツ語圏文化学」を形成しようとすれば,西洋で発展してきた学の方法論やパラダイムばかりか,そういうものを必要とする学の概念そのものをも疑問に付すことになり,改めて,人間の知的営みとしての学の定義を再検討すべきとの認識を裏書きすることにもなった。ところが,ここまでラディカルに学の根拠を問うことに対しては批判的な見解をもつ研究者も多い。しかし,西洋的学の概念にとらわれた研究者の立場の根拠を突き詰めると,あの実証主義に帰着することも明らかになった。この実証主義の呪縛から解放する論理の構築も,来年度へ向けての課題であり,それを踏まえて,近代化以前の日本の学問を,西洋のそれとは異なる様式をもつ学としてとらえ返すことになろう。
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