研究概要 |
1.本研究プロジェクトの過去2年間の成果を踏まえて,多文化主義に基づく異文化間コミュニケーションとしての発信型ドイツ語圏文化学の構想による次のテーマに関するケース・スタディーをドイツ語でまとめた。(1)ヘルダーにおけるVolkの概念と日本語『たみ』および漢語『民』との比較対照,(2)自文化の概念による異文化の概念の説明における諸問題,(3)禅の美学をドイツ語で説明する,(4)ケンペルの痕跡からゲーテの手稿『いちょうの葉』を読み解く,(5)鎖国時代における日独の相互発見と文化交流,(6)ハーマンの『へりくだり』の概念,レッシングの『同情』の概念および日本の対話形式から異文化間コミュニケーションの構成原理を析出する。これらに関する講演等を通じてドイツ,フランス,イタリアのドイツ語圏研究者と意見を交換,研究活動自体をも異文化コミュニケーションとしてとらえる本研究の構想を試行し,本研究の構想と具体的成果の国際的有効性を確認した。2.発信型ドイツ語圏文化学における対照研究の理論と方法論に関して,あらたにロシアにあってドイツ文学に通じた比較文学者V.M.Zirmunskijが神話や昔話研究で1920年代から提唱していた類型比較の方法,およびそれを引き継いで厳密化したチェコの比較文学者D.Durisinの理論を検討した。これらが本構想における対照研究と軌を一にしながら,比較の共通項の根拠を社会構造の同一性に求めるところに,そのマルクス主義的立場の限界があるとの認識に至った。3.日本を記述するドイツ語語彙も収集にあたっては,調査の結果,当初の想定を遙かに超える日本関係文献がドイツ語圏に蓄積されていることが判明したので,語彙集を作成するためには,それらをも踏まえて,調査収集とその整理を継続する必要があり,新たな研究プロジェクトの立ち上げが急務となった。
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