15年前にW.R.Garrによってほぼ画定された紀元前1千年紀の北西セム語の間の等語線をG.A.Rendsburgらのイスラエル方言研究の成果に照らして、再確定することが本研究の目的であった。 平成13年度には研究分担者の守屋が在外研究で日本を離れたため、池田が単独でデータの分析を進めた。 平成14年4月にA.F.Rainey名誉教授(テルアビブ大学)が来日した際に、同教授を筑波大学に5日間招いて、前年度の研究成果に関するレヴューを受けた。そのアドバイスを活かし、研究代表者の池田と研究分担者の守屋がデータ分析を7月まで続けた。7月には研究協力者であるG.A.Rendsburg教授(米国コーネル大学)とSh.Izre'el教授(イスラエル国テルアビブ大学)を約2週間日本に招聘した。池田と守屋および研究協力者の津村俊夫氏(聖書宣教会教師)が中心となって、国内のセム語学者・大学院生約10名を交えて、東京・筑波・京都の3箇所で研究会を開催した。この場で池田と守屋はそれぞれの研究成果を英語で発表し、Rendsburg教授とIzre'el教授のレヴューを受けるとともに、Rendsburg氏、Izre'el氏、津村俊夫氏に依頼した研究に関する報告を受けた。非常に有益な意見交換がなされ、次のような成果および新知見を得ることができた。 ・12の言語的特徴に関し、Garrによる等語線を再画定することができた。 ・北イスラエルにはユダ方言を高位言語、イスラエル方言を低位言語とするダイグロシアが存在したという仮説がはじめて提出された。 ・聖書時代以前のカナン語にも南北方言の違いがわずかながら見られ、その違いがカナン・アッカド語にははっきりと認められることが明らかとなった。 筑波での研究会の成果が注目され、日本オリエント学会の欧文誌に特集として掲載された。
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