初年度においては、ほぼ当初の計画通りに研究を遂行することができた。 まず、関連する分野のサンスクリット原典および中世ヒンディー語の文献を購入、調査する一方で、主たる研究対象であるケーシャヴ・ダースの『ラスィク・プリヤー』の読解を進めた。まだ全体にわたってサンスクリットの諸詩論書の記述と比較するなど、詳細に吟味するところまでは至っていないが、その準備段階として、現時点で一番信頼の置ける刊本であるヴィシュヴァナータプラサード・ミシュラ編のテキストをパソコンに入力した。これによって、今後他の写本テキストとの照合が容易になるばかりでなく、サンスクリットの関連文献と比較する作業においても、検索能率があがることが期待される。 そうした作業を進める一方、テキストの精度を高めるために必要となる写本の調査もおこなった。既に、1991年の滞印中、10数本の写本をインド各地の研究機関でコピーおよび写真ネガの形で入手してあったが、更に多くのサンプルが必要だと思われた。当初は、インドのリーワー大学図書館に赴いて調査する予定であったが、当該機関との連絡が旨く取れなかったため、急遽、これも古くかつ重要な写本を所蔵していることが予想された連合王国ロンドンの大英図書館に赴き調査した。その結果、『ラスィク・プリヤー』の写本が8本所蔵されていることが判明し、これらのうち古くしかも欠損のない2本をマイクロ化して送付してもらうことにした(実際の入手は次年度になる模様)。『ラスィク・プリヤー』以外にもケーシャヴ・ダースの諸作品の写本が数多く所蔵されていたので、併せて調査した。 こうして諸々の研究資料を集めることができたので、次年度においては、それらの入念な読解とサンスクリット詩論書との詳細な比較対照の作業を進めていきたい。
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