イタリアにおけるモダニズム文学の旗手とされるダンヌンツィオとピランデッロに焦点をあて、両者の作品を韻文と劇作という二つのジャンルを中心において分析を進めてきた。この2人の文学者は、ともに詩作をもって作家活動を開始し、政治的にファシズム政権に近付くという類似点を見せるが、彼らの抱く世界観は如実に異なっている。その世界観は、すでに初期の詩作に見て取ることができるものであり、さらに、詩作から小説や戯曲へと向かった二人の作家たちにとって、文学的発展の原動力として機能している。 平成15年度は、主にダンヌンツィオとビランデッロの詩作の分析作業を進めて、それぞれの世界観、文学観がファシズムの提示する(あるいは、提示しそこなった)新たな世界観と共振しつつも、その根底では二人の作家の世界観は文学者のそれとして一貫し続けており、それゆえにファシスト党の理念を形成していた開放性と閉鎖性の弁証法と無責任な共犯関係を築くとができた様を明示しようと努めた。
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