近代ロシアを代表する知識人の一人、アレクサンドルゲルツェン(1812-1870)の思想は、19世紀から20世紀初頭のロシアの思想に対して多面的な影響力を持った。従来から語られて来たのは、19世紀後半のロシア的社会主義である「ナロードニキ主義(人民主義)」への影響である。だが、彼の思想の影響は同じ時期のリベラリズムの運動にも認められる。本研究の代表者(長縄)は昨年よりニューヨークのコロンビア大学の所蔵するバラメーチェフ・アーカイヴを調査し、ロシア19世紀の代表的自由主義者フヨードル・ロンチェフ(1854-1933)とゲルツェンの娘ナタリア・ゲルツェンとの交遊の軌跡を辿ることを通して、リベラリズムの運動に対するゲルツェンの思想の影響の跡を実証的に明らかにしようと努めた。本年度の紀要諮文「ゲルツェンとロジチェフ」はこの成果の一端である。
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