現在までの本年度研究成果は裏面に記載した四論文にまとめた。日本比較文化学会における発表「現代ギリシァ詩としてのXAIKAI(俳譜)或いはXAIOY(俳句)」を発展させて論文1「瞬間の雫-現代ギリシァ俳句の重要性-」2「ホメロス揺曳-現代ギリシァ俳句序説-」3「現代ギリシァ俳句考察-ホメロス、サッフォーと芭蕉の出会い-」に、また英米現代詩学会の発表「恋の波紋-サッフォー、カトゥルス、エリティス-」は論文4「詩論の変貌-サッフォー断片31番とカトゥルス、エリティス訳の比較考察-」にまとめた。1及び2では、詩集、日記に残されたセフェリスの全俳句に見られるホメロスの語彙やテーマとの関漣を調査し、『航海日誌』や『神話物語』のような主要な作品と同様に深い関連を見出せた。また、セフェリスは俳句という短詩形式を詩心の象徴と考えていたことが日記等の記述からわかる。3は、最初にギリシァ語で俳句を書いたクリネオスや、アンドニウ等のセフェリス以後の詩人たちによるギリシァ俳句のうちに、ホメロスやサッフォーの特に修飾語句を連想させる表現が多いこと、三行短詩として俳句が、カリマコス以来の、長大な叙事詩に対して繊細で短い詩を尊重する西欧詩論の伝統に位置付けられた可能性を指摘した論考である。4では、サッフォー断片31番(LP)とカトゥルスのラテン語訳、エリティスの現代ギリシァ語訳を、科研費申請以前の調査よりも詳細に比較し、特に翻訳詩集『サッフォー』に見られるエリティスとサッフォーの繋がりには、セフェリスのホメロスへの傾倒を意識した面も存在することを示した。今後は、エリティスとサッフォー、セフェリスとホメロスという二つの研究課題を同時進行で調査して行くことにしたい。
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