5章から成る研究成果報告書の内容に対応させて、以下に概要を記す。 セフェリスに関しては、セフェリス「16の俳句」語彙を基に他詩との関連を探り、俳句の中にテーマの凝縮があることを示唆し、またセフェリスによって俳句形式が現代ギリシァ詩の一部となり、現代ギリシァ語による俳句の内にホメロスやサッポーの修飾語句的表現が見られることを日本の詩歌伝統とギリシァとの出会いという点から論じた。 エリティスについては、サッポー翻訳と他詩及び散文におけるサッポー言及及び引用を調査し、両者の深い繋がりを指摘。また特に抒情詩論の変貌という観点に基づいてサッポー断片31番とカトゥルス51番及びエリティス訳を比較、更に祝婚歌伝統の観点からサッポー断片104(a)(b)105(a)(c)とカトゥルス62番及びエリティス訳を比較考察した。 ソロモスに関しては、現代ギリシァ詩への展開という立場から、ウーゴ・フォスコーロのソネットとソロモスのギリシァ民衆語詩におけるホメロスの意味を考察、更に極僅かなホメロス翻訳を原文と対照した。またペトラルカ『カンツォニエーレ』126番とソロモスの現代ギリシァ語訳も比較した。 更に、ギリシァ的伝統考究の試みとして、アルドゥス版アリストパネスと写本異読の検討を、イタリア・ルネッサンスにおけるギリシァ語写本及び本文校訂の観点から行った。更にギリシァ伝統影絵人形劇カラギョージを現代の古喜劇と捉え、また絵本版アリストパネス『蛙』のメッセージを通して、絵本として生きる文化伝統を指摘した。 最終章「異文化に架ける橋」では、現代ギリシァ語実験詩の日本語翻訳を通して経験した文化異性の不思議な変容を論じ、また日本古典及び近代詩歌の現代ギリシァ語への翻訳を抒情詩の普遍性指摘の目的で、小論と共に行った。
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