クレオールと呼ばれる共通語をもつモーリシャスは今後その言語をモーリシャス語という母国語として確立していくことが出来るのかという課題を研究した。Dev Virahsawmyに対する2度にわたるインタビユーからモーリシャスの抱える低識字率の問題を解決するためにも母国語の確立が必要不可欠であることがわかった。 モーリシャス大学大学院の新設コースである「モーリシャスのクレオール文化講座」の受講学生および公用語である英語科の学生に行ったアンケート調査を集計しそこから有識者の母国語に対する意識を分析した。このアンケート調査の主旨は、日常の使用言語、教育の場での使用言語、口語としてまた書き言葉としての相違、またVirahsawmyの作品に関する知識などを、義務教育および高等教育を公用語である英語で受けた学生がモーリシャス語をどの程度母国語として認めているかを把握することにあった。そうすることにより、独立後現在に至るまでDev Virahsawmyが立願し実践してきたモーリシャス語の確立へ向けての運動にどれほどの効果が得られてきたのか、また今後の効果が期待できるかがある程度認識できるのではないかとの仮定からである。このアンケート調査の結果、実施数の約70%がモーリシャス語を母国語と認め、Virahsawmyの使用し始めたモーリシャス語(Morisien)という呼称をモーリシャス・クレオール(Mauritian Creole)よりも好ましく考えていることが確認された。またレユニオンにおいて、クレオールと称される言語と関わる研究者が世界各国から集い研究会が開催され、その開会式においてVirahsawmyがオープニング講演を行い、彼のモーリシャス語の作品をプロの劇団が上演した。これにより彼の主張がモーリシャス国内にとどまらず、世界に発信され母国語確立に外からの力となりうると考える。 またモーリシャス語を書き言葉として本格的に体系化するプロジェクトがカトリック教会の協力のもとに推進されてきた。それにより、Virahsawmyの作品もそのスペリングが修正されていた。Virahsawmyの作品(詩)のいくつかを英語に翻訳する共同作業の成果を日本語に翻訳、すでに翻訳されている戯曲Liの日本語訳も行い報告書の資料とした。 今回は英国での実地調査が出来なかったが、Virahsawmyの作品を英訳し、上演している英国のBorder Crossingからの資料に基づき国外での受容の一端を知ることができ、またシェークスピアとの関連性についても触れることができた。 今後の課題としてはモーリシャス語の定着、更にモーリシャス文学の未来についての展望が挙げるれる。様々な面でフランス色が残るMauritiusであるが地理的に米英にとって有益な地域に位置していることもあり、政治的要素を除く文化的要素のみで分析することは今後難しいと思われる。従って更に国内外の政治的力関係を分析していく必要がある。
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