本プロジェクトの平成13年度研究実績は以下の通りである。 1)申請者保有の音声資料およぴ公刊された諸方言の音声資料を用いて、子音音素の近似統合状況が生じる歴史的条件を、(1)後接する母音音素が統合したが音節としての対立を存在する場合、(2)当該の子音音素に先行する音節の脱落、(3)先行する音素から特定素性の拡張(同化)を被った場合、(4)該当の子音音素の特定素性が立ち遅れる場合、の四つに類型化した。それぞれ具体的な分析対象として、(1)北琉球諸方言の喉頭化、(2)南琉球方言の喉頭化、(3)東北方言の閉鎖系列の有声化、(4)南琉球大神島の閉鎖系列の無声化、等をとりあげて必要に応じて音響分析の手法も用いて分析を行った。 2)主として1)(1)の要因によりもたらされた近似統合状況の音声実態を把握することを目的に、北琉球奄美方言に属する喜界島方言と与路島方言の臨地調査による音声資料収集を行った。喜界島方言調査の際には琉球方言の調査経験を有するものを調査補助に依頼した。これらの調査により、奄美方言の中舌母音化に関連して・従来岩倉市郎などのネイティブ研究者によって報告されていた/ni/拍の口蓋化の有無による近似統合的対立を確認し、ディジタル媒体への良質な録音を確保することができた。 3)上記の臨地調査を踏まえて、北琉球の中舌母音化を含めた母音推移と、それが契機となって生じたと想定される子音体系の近似統合的状況に関する歴史的観点からの第一次的仮説を構築し、一部を「奄美諸方言における中舌母音の歴史的重層性」として公表した。
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