研究概要 |
本研究は、苗瑶(ミャオ・ヤオ)諸語とその近隣に話される少数民族言語を比較対照し,苗瑶語の祖語の音節構造、語の形態、句(phrase)の構造を解明する手がかりを得ようとするものである。 本年度は、苗語の中で最も名詞接頭辞が多い方言である、羅泊河苗語の名詞の形態と名詞句の構造を、自らのフィールド調査によって得られた資料をもとに整理することから着手し、それを他の苗瑶語の構造との比較を行った。また、ミャオ語系の言語である、パナ語についてもフィールド調査によって得られた資料をもとに歴史言語学的考察を行った(11項研究発表参照)。現段階では明確な結論は得られていないものの、以下のような推論を行っている。(1)重複に関しては、祖語に遡る特徴を限定することは難しい。ただし、動詞の重複が漢語(中国語)と異なる文法的意義(動作の頻度増大、動作の精密度の増大など)をもつことは注目してよい。ただし、これは通言語的な特徴でもあり、歴史的に共通な文法的意義を特定することには困難がある。(2)苗語で多く見られる名詞接頭辞は名詞を分類する傾向が見られ、すでに文法的機能は退化しているが、かつては類別詞的な語彙であり、それが名詞の一部として痕跡化したものである可能性がある。(3)名詞句の構造に関しては、数詞+類別詞の構造が名詞に先行する以外は、形容詞、指示詞は名詞を後から修飾する苗語に見られる構造が、祖語に設定すべき構造であるように思われる。
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