本研究は、スケール(ある対象の量に関する属性を表すことのできる要素の全順序集合)および、グレーディング(スケールにおける値の選択)、比較(同じスケールにおける複数の値に対する関係の設定)という人間の認知的装置とその言語形式による表示方法の関係を研究することを目的とする。 本年度は、形式名詞「トコロ」の場所用法、時間用法、反事実用法を統一的に説明する方法を研究した。トコロはそれがとる補部が持つインデクスのとる値を参照点として指定し、スケール上の位置を示す表現である。場所用法では、空間的位置を、時間用法では時間的位置をそれぞれ表す。参照点が発話時、発話空間と一致するときは、現在地、現在時、現実世界を表す。つまり、「xの前、後」「xの右、左」のような関係を表す表現における「x自体」を示すのである。これを条件の場合に適用すると、反事実性が説明できることを示した。 さらに、この参照点指示に関する表示を一般化することで量を表すスケール表現にも適用できることを示した。すなわち、「xより多い、少ない」における量の参照点を表す統語的位置があると仮定するとダケ、バカリ、ブンなどの量表現の用法を適切に表現できることを示した。 以上の成果の概要をミシガン州立大学で開かれた第15日本語韓国語言語学会議、ウィーン工科大学で開かれた、ESSLLI(ヨーロッパ言語・論理・情報夏季講座)でのワークショップで発表した。
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