中期蒙古語の文献資料からうかがえるモンゴル帝国当時の言語状況と言語生活、それらが言語構造そのものに及ぼした影響の全容は未解明である。申請者は、既に、ウイグル語あるいはチベット語に範をとったと解し得る翻訳借用が、蒙古語に定着し、さらにそれが範型とな.つた形式が優勢になるにともない蒙古語の言語構造に影響を及ぼした事例を発見している。文献資料の資料的価値を確定しテキストを精査するとともに、そこで得られた知見を社会言語学的発想をもふまえた斬新な枠組みから見直すことによって、新たな展開を得ることは可能であると考えられる。この想定のもとに、その基礎的作業として本年度は内外のモンゴル語文献の収集状況を、確認するとともに資料収集に努めた。作製した資料と、申請者の現在に到るまでの研究蓄積を活用して、借用形式の来源を解明し真正の借用形式と疑似借用形式を峻別し、各々の正体を明らかにしたい。その成果に基づき、13-4世紀のモンゴル帝国の言語状況を考察するとともに、その状況下におけるモンゴル人の言語生活を可能な限り具体的に明らかにする作業に従事している。その成果は、次年度以降、逐次交換される公刊される予定である。また、平成11・12年度の科研費交付によって得られた借用形式に関わる知見を加味して、電算機処理を活用した総合的な整理し体系化を試みるとともに、申請者が構想している「中期蒙古語における借用形式のデータベース」の実現の可能性を模索している。
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