研究概要 |
統語論:Gunther Grewendorf氏、Joachim Sabel氏(ゲルマン系言語)、Zeljko Boskovic氏(スラヴ系言語)、宮川繁氏(アルタイ系言語)と協同研究を進め、日本語スクランプリングの特質を明らかにしてきた。特に、比較研究を通して、日本語スクランブリングが、意味表示に反映されない特殊な性質をもつ移動規則であることが確認された。 この成果を基に、斎藤が、日本語スクランブリングの具体的分析を学会招待講演として発表した(Formal Approaches to Japanese Linguistics 3、2001年5月、MIT)。この分析によれば、日本語スクランブリングは、いわゆる移動のメカニズムによってではなく、より基本的な句構造形成のメカニズムによって説明されるべき現象となる。また、アジア理論言語学会における招待講演(Asian GLOW 3,2002年1月、台湾国立清華大学)では、なぜ日本語にこのような移動規則が存在するのかというより根本的な問題をとりあげ、句構造形成に関するパラメターによる説明を提示した。 言語獲得:村杉を中心に、スクランブリングの獲得について、2〜4才児を対象とした実証研究を進めた。8月には、村杉、斎藤が,客員研究員としてオランダ・マックスプランク心理言語学研究所に二週間滞在し、予備実験の結果を報告するとともに、同研究所の言語獲得研究グループと協同研究を開始した。また、本実験の結果は、村杉が、アジア理論言語学会(Asian GLOW 3,2002年1月、台湾国立清華大学)において発表した。 この実証研究は、先行研究とは異なり、スクランブリングが極めて早い段階(2才)ですでに獲得されていることを明確に示した。特に、移動のメカニズムが典型的に適用される受動化との対比は、鮮明であった。この結果は、スクランブリングが、移動のメカニズムではなく、より基本的な句構造形成のメカニズムによるものであるとする統語研究の結論と合致するものである。
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