研究概要 |
本年度は、主に、以下の3点について論文執筆を行った: 1.松村宏美氏と共同で、日本語の他動詞の多義派生のメカニズムについて考察した。他動詞「しめる」を例にとり、その「締める」「絞める」「閉める」の多義が動詞固有の意味的特徴とその動詞と共起する名詞句の意味的特徴との組み合わせによって派生していることを観察した。同時に、多義派生にはアスペクトシフトも関連していることを指摘し、この多義派生のメカニズムを動詞の語彙概念構造(Lexical Conceptual Structure)と名詞句の特質構造(Pustejovsky,1995)の枠組みを用いて形式的に記述した。 2.使役動詞文が示す含意関係の不規則さと時制の決定との関連性について考察した。具体的には、「花瓶を割ったけど割れなかった」は矛盾するが、「燃やしたけど燃えなかった」は可能である。同じ他動詞でもこのような含意関係の違いがあるのはなぜか、また、このような含意関係の判定をする際は、V-る形ではなく、V-た形にするのはなぜかを考察した。結果、時制の形態素「た」は、使役動詞文の概念構造に指定されている焦点(Event Headedness)についてその言及の時点(Reference Time)を固定することを仮定し、含意関係の不規則さを説明した。 3.滋賀大学附属養護学校との共同研究。附属中学部の授業において、会話や作文で学生が過去・現在・未来を混在させながら表現していることが観察された。特に、複数の時系列が組み合わさった会話にコミュニケーションギャップが起こっていた。まず、時系列という概念の理解や表現に困難があるかどうかを探るために、実験授業を組み立ててその時間中での会話を分析し、時間表現に関するギャップの要因を検出した。また、適切な時間表現ができるようになるための支援策も考案した。
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