研究概要 |
平成14年度は,中国語の書きことばのテキスト入力を継続するとともに,内容的には,主に次のことがらについて考察をおこなった。 (1)文法カテゴリーとしてのテンスがあるか(日本語)ないか(中国語)ということが文法システム全体にどのような影響を及ぼすか[井上]。 (2)「話し手と環境とのインタラクション」は,言語表現とりわけ空間表現・時間表現にどのような影響を与えるか,またそこに言語差は存在するか。[定延] (1)の考察の結果,日本語と中国語に見られる次のような現象は,文浩カテゴリーとしてのテンスの有無と関連があることがわかった。(1)アスペクトの基本的性格の違い,(2)「のだ」と"是〜的"構文の使われ方の違い,(3)非自律的変化を表す自動詞相当表現の構造の違い,(4)描写型形容詞文における程度副詞の使用に関する違い,(5)「条件-結果」を表す複文における接続副詞"就"の使用。 また,(2)の考察の結果,現代日本語では「知識」(共有可能性が高い言語情報)と「体験」(共有可能性が低い言語情報)とが言語表現上表し分けられていることが明らかになった。そのことは,特に「空間的分布を表すかに見える頻度語彙」,「モノの存在場所を表す『で』」,「発見を表すかに見える『た』」,「限定を表すとりたて詞『ばかり』」,「情意表出表現」において顕著に認められる。また,「知識」と「体験」の区別に関して,中国語は日本語と異なる様相を示すことも明らかになった。 これらの成果のうち,論文としてまとまったものを報告書(A4判,200ページ)の形で刊行した。
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