本研究は「情報記号論」という記号論の新しい分野を開拓することを基礎理論上の課題とし、研究対象としてはデジタル・メディア上で展開するフィクションや物語を題材に情報記号論の分析方法を開発することを応用研究上の課題として遂行された。研究成果として、情報記号論の基礎理論を記号論と情報学との界面領域に位置づけ、その認識論的な定位をおこない、その基本原理を体系化して提示することができた。これらの理論的成果は「日仏メディオロジー討議」などの国際シンポジウムの開催や、「言語態」に関する著作・論文などの形式で公開されると同時に、フランス国際哲学院における理論セミナーをとおしても発表された。他方、応用研究は、デジタル・フィクションの具体的分析を通じたニューメディアにおける語りの解明、ハイパーメディア詩学の分析モデルの定式化として発表されると同時に、ハイパーテクストによる物語の分析フレームの提示とその自動生成のプロトタイプ作成の試み、デジタル時代を迎えたTV番組をディジタル・メディアを通して分析するハイパーテクスト・理論ツールの試作などとして成果を上げた。以上を通してサイバースペースにおけるセミオーシス(記号過程)の解明を担う新しい学問領域として、「情報記号論」の学的体系化への道がひらかれ、その知見は、パリ第7大学、メルボルン大学、北京大学における数多くの研究セミナーを通して公開されると同時に、情報メディア・リテラシーの教育へのフィードバックの試みとして、高等教育における情報学教育への提言としても発表された。
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