研究概要 |
研究計画3年目の平成15年度には,新たにジョヴァンニ・ピコ・デッラ・ミランドラとエルモラオ・バルバロが交わした書簡による修辞学・哲学優劣論争の研究を行うとともに,研究課題全体の理解を深めることを目標とし,この目的のためにロンドンの大英図書館およびロンドン大学ウォーバーグ研究所で文献の調査・収集を実施した(平成15年8月30日〜9月12日)。 上記の2つの図書館では,日本の図書館では容易に参看できない多数の一次・二次文献に当たったが、特に重要な文献はノート型パソコンによる転写・ゼロックスコピーで入手した。 この調査・研究の結果,以下のことがわかった。まず,ピコが,人文主義者の大勢と異なり,スコラ哲学の技術的言語表現に修辞学では測れない独自の価値があることを認め,哲学を人文主義からの攻撃に対して擁護したこと。次に,ピコに返答したバルバロが,人文主義=修辞学の哲学=弁証術への優位性を再確認しつつ,アリストテレスおよびその初期のギリシアにおける注解者をギリシア語原典で読解してはじめて正しいアリストテレス解釈が行いうることを主張し,その意味でブルーニ以来の人文主義的アリストテレス主義を継承したこと。以上の2点である。 この意味で,ピコ=バルバロの論争には,研究計画1・2年目に調査・研究したレオナルド・ブルーニの翻訳論およびアンジェロ・ポリツィアーノの弁証術論にはない,修辞学と哲学との直接的な優劣論争が見られると言えよう。この特質は,人文主義者でありながら哲学研究を本格的に行ったピコと,ギリシアのアリストテレス注解者の翻訳・解釈を先駆的に行ったバルバロの特殊性によるものと考えられる。
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